テーマ「産学連携による地域社会発展への期待」
山崎光悦学長 × 金井 豊 北陸電力㈱代表取締役社長(平成27年10月5日)

                                                 

司会 本日は,地域における国立大学の在り方について山崎金沢大学長と金井北陸電力社長にお話を伺いたいと思います。現在,国立大学は大きな変革の過程にあると思いますが,大学の現状と現在の取組等について山崎学長からお話しいただけますか。

山崎学長(以下,山崎) 平成16年に国立大学が法人化されて11年になりますが,基本的予算が毎年1.3%削減され,その分を競争的資金に回し各大学が業績に応じて資金を獲得するようになってきています。その結果,東京大学と京都大学の二強とその他の大学に二極化されつつあります。また,国立大学の予算が削減される中,本年度,与党の中に「国立大学振興議員連盟」という組織が立ち上がり,国立大学を応援しようという動きが出てきました。それに呼応して,大学自身も地元の産業界の皆さんから理解とご支援を賜りたいと考えております。

本学も日本海側の基幹大学という位置にあって,グローバルな競争に打ち勝ち,世界のトップ100入りを目指して頑張っているところであり,具体的には今,三つのことに取り組んでおります。

一つ目は「教育改革」です。今の学生たちは,一般的な常識とか教養に欠けるところがあります。例えば,日本の文化歴史をよく知らないことや,人間関係構築のための基本的な能力に欠けていることがあります。本学は「教養教育改革」を基本に据えて,学生に基礎的な能力を備えさせて世の中へ送り出そうという取り組みを始めたところです。もちろん,専門を大切にしながらプラス国際コミュニケーション力を備えるための改革を進めています。加えて,より高度な専門知識等を身につけさせるために大学院教育の高度化にも取り組んでいます。

二つ目は「研究力強化」です。世界に伍して勝負できる研究大学になるために,強い所をさらに強くして「選択と集中」を進めています。

三つ目は「国際化」です。本学は昨年度,国の支援事業である「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択されました。10年間の支援を受けながら国際化,グローバル人材の育成を進めてまいります。取り組みの一つを挙げると,大学院教育をすべて英語で行う,また学士教育の平均50%以上を英語で行うように,10年かけて移行したいと考えています。もちろん日本語できちんと専門用語が理解でき,専門書が読めるようにしてからです。

司会 金井社長のほうから,地元の産業界として金沢大学に望むことはございますか。

金井社長(以下,金井) やはり地域の振興にご尽力をいただきたいということです。地域振興の具体的な中身になるといろいろありますが,まずは大学の役割として地域の学術研究の中心ですし,また文化の発信の担い手として,地域に対していろいろな分野で貢献していただきたいと思います。

それから,人材の育成です。我々企業の立場でみますと「何かしてくれる人間」が必要です。それは,人から課題を与えられてやるのではなくて「自分から積極的に取り組む人間」です。勉強でもそれ以外のことでも大学時代に何かやってきた人が会社に入ってから伸びているような気がします。「私は学生時代に,これをやってきました」という人は,会社に入っても活躍する確率が非常に高いと思っています。それは,勉強でもボランティア活動でも何でもいい。何かやり遂げた人,自慢できるようなことを持っている人というのは,会社に入ってからも非常に伸びる人だろうと思います。そういった特徴のある学生を育成していただきたいと思います。また,社会人になるための一定程度の素養みたいなものが必要だと思います。例えば,技術屋であれば最低限の数学の力は必要です。全体的に共通することでいえば,コミュニケーション力とか,できれば語学。語学はコミュニケーション力に通じますが,日本語がきちんと話せて,そのうえで英語がちゃんとできる人です。あと,人付き合いが上手くできることも大事なことです。

もう一つ,大学にはいろんな研究をされている教員がいますので,研究成果を地域に還元し,地域に対していろいろ貢献していただきたいということです。

山崎 今の学生は“まじめ”で勉強はするけれど主体性がなくなってきています。金井社長が言われるような学生を育てるために,学生が自ら学ぶために何かアクションを起こす「反転授業」というやり方に取り組んでいます。来週やる授業内容と教材を事前に伝え,各自がちゃんと予習して,質問したい疑問点あるいはディスカッションしたい部分を準備させるようにしています。これは「アクティブ・ラーニング」というやり方です。これにより積極性とか,自分で学ぶ力を育てます。教員は一見楽そうに思われるかもしれませんが,何が飛び出すか分からないので,実際にはとても大変です。

結局,教え方によって,学生の能力をどれだけ引き出せるかが全然違うと思います。伸び代は人によって随分違うので難しいことですが,中には特色ある若者が育ってくれると思います。言われたことをコツコツやることも大事ですが,積極性,自分から打って出るようなアクティブ性が必要だと思います。

司会 長らくこの日本経済が停滞している原因の一つに,イノベーション不足ということも言われていますが,地域におけるイノベーションを活発にするために,大学に対して金井社長からご要望等はございますか。企業の研究開発と国立大学の研究開発との関係も含めて,ご発言願います。

金井 当社と金沢大学とは連携協定を結んでおり,フライアッシュの活用等,いくつかの共同研究を行っています。人的な交流も含めていろいろと連携協力させていただいています。

大学の研究分野は幅が広くてまだまだ驚くこともありますので,研究情報が共有されていればもっといろんな事ができると思います。そういった意味で,情報交換を積極的にやらせていただけると,お互いに参考にできるものがたくさん出てくるような気がします。

山崎 包括連携協定を3年前に締結させていただいてから,年5~6件くらいの共同研究が同時並行で進んでいます。進んでいる研究を一堂に集めて,ほとんどの部長クラスの方に参加いただき,年間に2~3回進捗状況の確認も行っていますし,さらに情報交換や懇親会を行うなどして,風通し良く行っていると思います。双方のニーズ・シーズの中から新しい研究に繋がっていければと思います。

金井 地方発のベンチャー,大学発のベンチャーみたいなものがあるとやはり地域の活性化にも非常に役に立つと思います。外から人が集ることもありますし,あるいは,最終的に起業ということにも繋がるかもしれませんので。我々もできるだけ,ご協力はさせていただきたいと思います。

山崎 本学では,ここ15年くらいの間に20社くらい起業していますが,生き残っているのは3~4社で,本当に成功した事例は2社くらいです。成功しているのは,教員ではなく別の人がお金の調達とかマネジメントを行い,教員はシーズを実現するために一生懸命やっている会社です。

司会 冒頭で学長の方から,運営費交付金の削減というお話がありましたけれど,金井社長の方から,企業からみて国立大学に対する政策的提言だとか財源確保といった面で,何かコメントございますか。

山崎 その前にもう少しだけ運営費交付金について追加説明させていただきますと,運営費交付金は年1%ずつ減らしてきて本年度で2期の12年が終わります。今期は1.3%×6年ですので,もう8%くらい運営費交付金が減少しています。それ以前に5%減っており,平成16年からみると,もう13%くらい削減されているわけです。競争的資金が獲得できていない大学にとっては,非常に厳しい状況に追い込まれており,今後,大学の再編が進むと思いますが,そうすると大学がなくなる地域も出てくるでしょう。本当にそれでよいのかよく考える必要があります。

金井 一般的に考えると,大学もちゃんと競争してお互いに切磋琢磨し良い所を伸ばしていきましょうということだろうと思いますが,それをずっと突き詰めて行くと,最初から競争条件的に優位なところがあって,強いところはますます強く,弱いところはますます弱くなってしまいます。このままでは,今の都市の一極集中と同じことが起きてきます。地方の大学もやはり地方創生の担い手なわけですから,その地の学術研究の中心であり,文化の担い手でもあるし,なによりも人材の供給拠点です。教育だけでなく地方が元気になるためにも,国全体の学術文化の発展という観点がやはり必要だろうと思います。

山崎 ここ10数年,競争や効率化ということでやってきましたが,その一方では,やはり地域にある大学として地域が活性化するための施策や配慮が必要なことは明らかです。それがなくて競争だけでいくと,地方から大学が消えてしまいます。

金井 別に医学系に限らず,工学や法律の専門家でも良くて,「この人の周りに学生や研究者が集まってくる」という教員が金沢大学にいてほしいと思います。

山崎 本学は研究力強化を目指しており,世界的に有名な研究者を育てるということに注力をしているところです。

具体的な取り組みとしては,外部資金を取ってくる教員には,外部資金に付く間接経費の何パーセントかを給料に反映するというようなことを昨年度から始めました。また,研究環境整備として「リサーチプロフェッサー制」も昨年度に導入しました。これは,管理業務や雑用を免除し研究に特化してもらう制度です。該当者は今のところ全教員の中で3~4%,将来的には10%くらいにしたいと思っています。また一方で,授業を多く持ってもらう,教育に特化した制度を検討しているところです

金井 また,学生の国際化ということで言えば,留学生が多い大学を目指すべきだと思います。留学生がたくさんいると,日本人学生も必然的に英語で話をしないといけなくなりますし,街も賑やかになる。特に留学生が多いと,さらにいろいろな人が集まってきて街に活力が生まれます。

山崎 国際化という視点では,現在,全学で学生が1万500人くらいいるうち,530~540人くらいが留学生です。5年後には1,000人以上,2倍くらいに増やそうと考えています。さらに10年後にはこれを2,200人,全体の2割になるよう目標設定しています。それは,学内に国際的な環境,インターナショナルな環境をつくり,嫌でも英語を使わざるを得ない環境にすることです。実際,留学生のいる研究室ではゼミも研究打ち合わせも全部英語になってきています。

冒頭でお話ししたように,大学院での教育は基本的には原則英語でやろうとしていますが,すでにそうなりつつあります。また,学生を海外に送り出すということもやっています。1年間に新しく1,800人くらいの学生が学士課程に入学しますが,その半分を卒業までに海外に必ず行かせようと思っています。それが学生を多方面で強い人間に育てる,大事な一つのポイントです。

司会 金井社長のほうから,地方創生にも積極的に関わってもらいたいというお話がありましたが,「地方創生があってグローバル」,「グローバルがあって地方創生」と,グローバルと地方創生は必ずしも二律背反ではないと思いますが,この点についていかがでしょうか。

山崎 人材育成という視点では,例えば教員養成,北陸地区の学校の先生方を育てています。また法曹関係も北陸では本学しかありませんので,北陸の法曹界の人材を供給しています。病院も同様に,地域に派遣することも含めて,地域医療を担う人材育成を行っています。地域に密着した人材育成は,地方創生の最優先課題だと思います。

一方で,理工系や人文社会系でも,文学や経済,国際等の分野では,グローバルに活躍する人材を送り出しています。そういう意味で,本学は地域密着とグローバルは,なんら矛盾はないと思っています。

本学は,「世界を目指す」と言っていますので,教員は世界最先端の研究を目指し,学生がその最先端の研究成果に常に触れるように教育していきます。そうすることで超一流の学生,人材が育つものと思います。地域に一定の割合の学生を就職させるということを含めて,大学として「COC※1」とか「COCプラス※2」という地域に貢献する活動にも取り組んでいますが,地域に貢献することが大事だからといって,大学が目指す方向や研究そのものが地域限定である必要はないと思います。むしろ地域創生とグローバル化は一体的に考えるほうが上手くいく。例えば,「田舎の○○市役所に勤めるから英語ができなくてもいい」という論法はありえません。

1 COC:文部科学省「地(知)の拠点整備事業(COC)」は,大学等が自治体と連携し,全学的に地域を志向した教育・研究・地域貢献を進める大学を支援することで,課題解決に資する様々な人材や情報・技術が集まる,地域コミュニティの中核的存在としての大学の機能強化を図ることを目的した事業。

2 COCプラス:文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」は,大学が地方公共団体や企業等と協働して,学生にとって魅力ある就職先の創出をするとともに,その地域が求める人材を養成するために必要な教育カリキュラムの改革を断行する大学の取組みを支援することで,地方創生の中心となる「ひと」の地方への集積を目的として実施する事業。

金井 世界に誇れる大学であれば,周りから人が集まってきますし,それはそれだけで地域の活性化になります。これから求められる人材というのは,やはり外も見ることができる人材です。仕事内容は,国内のローカルな仕事であっても,人材的には,外の世界も分かっている人材が求められています。

山崎 人材は絶対にグローバルでなければなりません。地元に就職するから英語は不要という考えは間違っています。地域でがんばる,地域で活躍する人材であっても,当然英語力は必要で,外国人とのコミュニケーション,あるいは交渉ができないと仕事にならない時代になってきています。ニューヨークで起きたことが,翌日には地元に影響する時代ですから,大学がどこを目指すかに関係なく,学生の教育はグローバルでないといけないと思います。そのためにも私は学長として「皆ががんばる,地域に愛され,世界に輝く金沢大学」を目指して,大学の改革に取り組んでいきたいと思っています。

司会 本日の対談では,山崎学長からは時代の変化に対応して大学が社会に対してどう関わっていくか,その決意をお聞かせいただきました。また金井社長には実業界からの視点で金沢大学に対する非常に有益な提言,コメントをいただきました。北陸の知の拠点として地域の人材,優れたリーダーを輩出する大学として,ぜひこれからも金沢大学にはがんばっていただきたいと思います。本日は,ありがとうございました。