金沢大学<グローバル>スタンダード(KUGS)の解説

[学士課程版]

金沢大学<グローバル>スタンダード,すなわちKUGS は5つのスタンダードから構成されており,各スタンダードは相互に独立したものではあるが,以下では過去から未来へ,外在性から内在性へ,また自己から他者へと緩やかに配列されている。

 

スタンダード1.自己の立ち位置を知る:
鋭い倫理感と科学的知見をもって,人類の歴史学的時間と地政学的空間の中に立つ自己の位置,自己の使命を主体的に把握する能力

 スタンダード1が述べているのは,自分が置かれている状況をできるだけ正確にとらえることによって,自分が何をすべきかを自ら進んでつかみ取る能力のことである。ここで言う状況とは,巨視的な時間のスケールで言えば,今生きている現在から,生物としてのヒトが進化した地球の時間,そして,それに先立つ宇宙の時間にまで拡がり,空間的なスケールで言えば,現在の地点から,地域コミュニティ,地方,都市,国家,国際社会,そして地球全体にまで広がっている。
 このような状況の中心には,文化的,政治的,経済的なさまざまな問題が存在している。しかし,これらの問題を事実として正しく知ったとしても,そこからどのような行動を起こすべきかを導き出すには,何らかの倫理的判断が必要である。それは,人類がこれまでに培ってきた倫理的な態度や感性にもとづいている。例えば,個人的な自由や欲求を求めることと,正義や公平を社会に実現することとを両立させるには,人類社会の倫理的規範に従うことが必要である。したがってここでは,さまざまな角度から自己の立ち位置を知るとともに,倫理的な態度や感性を養うことが求められる。
 スタンダード1は,学士レベルの理解度において学生が,自分の置かれている状況を正しくとらえ,将来の自分の行動を導き出すようになることを意味する。

 

スタンダード2.自己を知り,自己を鍛える:
自己を知り,その限界に挑戦し,知的冒険と心身の鍛錬を通して常に自己の人間力を磨き高めていく能力

 スタンダード2が述べているのは,まず自己の限界を知ることによって自己を知る能力,つまり心と身体の両面における自己のアイデンティティを知る能力のことである。しかし,この能力は直ちに,自己の限界を乗り越えるための人間力を常に高めていくことも要請する。自己が何であるかは,自己の内面をただ見つめるだけでは知ることはできない。スタンダード1で言う「状況」を含めて,自分の具体的なあり方を通してしか,自己が何であるかはとらえられない。
 自己の具体的な姿は自らの限界をも示す。多様な知的・身体的能力がそれぞれに限界づけられた結果として出現する「形」が,その人の個性(アイデンティティ)であるとも言えよう。したがって,自己を知ることは自分の限界を知ることに他ならず,それゆえここから,「自分の限界内に留まり,現状に安住しようとする」者と「自分の限界に挑戦し,自分を高めていこうとする」者の違いが出てくる。
 スタンダード2は,各人各様の状態に応じて「常に自己を高みへと引き上げていこう」とする人間力を,学士レベルの到達度において学生が培っていくことを意味する。

 

スタンダード3.考え・価値観を表現する:
論理的構成力や言語表現力を駆使して概念やアイデアを明確に表現し,かつ自己の感性や価値観を的確に他者に伝える能力

 スタンダード3が述べているのは,言葉や図表によって思考やアイデアなどの自分の考えを明確にする能力と,さらにそのような思考や表現行為の背後にある自分の感性や感情,価値観,ものの見方などを他者に的確に伝える能力のことである。
 思考やアイデアは,たんに頭に思い浮かべているだけでは明確ではない。日本語や英語などの特定の文法に従って思考やアイデアを言葉にし,さらにそれを論理的に組み立てることで,はじめて明晰な説明や論証になる。さらに,説明や論証は,それを行う人の感性や価値観という,より広い文脈においてのみ,正確に理解される。そもそも思考やアイデアを表現することは,自己の奥にある感性や価値観を何とかして他者に伝えようとすることに他ならないからである。
 スタンダード3は,学士レベルの技能程度において,学生が自分の考えを明確に表現し,その考えの背後にある感情やものの見方を他者に的確に伝えるようになることを意味する。

 

スタンダード4.世界とつながる:
他者への深い共感にもとづいて異文化を受け入れ,自国と郷土の文化に対する強い自覚と誇りをもって世界と積極的につながっていく能力

 スタンダード4が述べているのは,他者と共生する能力のことである。同じ文化に属するものどうしでさえ,他人は考えや,感じ方,行動パターンの点で自分とは異なり,その意味で理解しがたい存在である。これまで多くの共同体や社会は,他者を慣習や法制度によってできるだけ均一的な存在へと同化しようとしてきた。しかし,いまや求められるのは同化ではなく,歴史的にも文化的にも自分たちとは大きく異なる「多様な他者たち」との共存・共生である。
 他者との実り豊かな共生のためには,自分たちの国の歴史や文化はもちろん,自らを育んできた郷土に対する知識と自覚が必要である。他者との実際の共生は,普遍的なコスモポリタン同士の関係ではありえない。世界の中における自分たちの「特殊性」を自覚することこそ,「他者の異質性」と共に生きるための前提となる。
 しかしまた,他者との「共生の作法」を身につけることは,たんなる心構えの問題ではない。国際関係に対する理解や,個人と国家・民族・宗教などとの入り組んだ関係に対する認識も必要となる。法の下での平等,性別や障害や人種などから生ずるあらゆる偏見・差別の撤廃,いかなる個人にも保障されるべき人権,様々な形態での移民の受け入れや難民に対する保護など,互いの存在の根源性を受け入れながら他者とつながるためには,どの国も今後,数多くのハードルを超えていかなければならない。
 スタンダード4は,自分たちの文化を自覚し,他者との文化的差異を率直に認めながら,徹底して寛容な態度で積極的に「他者の異質性」と交わっていこうとする意欲を,学士レベルの到達度において,学生がもつようになることを意味する。

 

スタンダード5.未来の課題に取り組む:
科学技術の動向,自然環境変動,持続可能性などの多角的視座から,地球と人類,国際社会と日本の未来を総合的に予測し,未来の課題に取り組んでいく能力

 スタンダード5が述べているのは,現在から未来にいたる状況認識に基づいて,未来の課題に積極的に取り組んでいく能力のことである。現在の世界では,地球温暖化による自然環境の激変やボーダレスな新型感染症の発生など,地球規模でしか解決しえない課題が深刻さを増している。その一方で,国際社会においては,アジアやアフリカ諸国の相対的な比重の高まりや新興国の台頭など,これまでのヨーロッパやアメリカを中心とした世界秩序が変容しつつある。また日本においても,急激な少子高齢化や経済競争力の低下など,10 年先の姿を見通すことさえ困難になっている。
 しかし,このように予測困難な時代であるからこそ,科学の叡智を結集して,大災害や貧困層の拡大,軍事的衝突や経済的危機を回避しなければならない。そのためには,客観的な現状分析から未来を予測しようとする諸科学の方法論と成果を身につけなければならない。もちろん,未来予測は容易ではない。しかし,困難がたとえ大きくとも,最新の技術と発想をもって人類が取り組むべき重要な課題なのである。
 スタンダード5は,学士レベルの理解度において学生が,地球と人類の未来像をできるだけ総合的に描き,それをもとに未来の課題に進んで取り組むことを意味する。